引用元:ANN News
 
既に各種報道で御存知の通り、去る8/2 首都高速湾岸線で乗用車2台が絡む追突事故が発生、追突された乗用車の2名が亡くなるという、悲惨な結果となってしまった。

亡くなられたお二人のご冥福をお祈りします。

現場映像と車両を見る限り、相当な速度で追突した可能性は高く、日本の法律に照らし合わせれば単なる事故ではなく、殺人事件と言っても過言ではない犯罪である。

以前にも書いたが、首都高ランナー行為は犯罪行為。

やってはいけない事だという事を読者諸兄も重々に胆に銘じておいてもらいたい。

その上で、今回の事故でこの2台に何が起こったのか、既に出ている動画や写真を基に分析していこうと思う。

<8/7追記> 走行中のドライブレコーダー映像が出てきており、一部内容をそれに準拠して再検討を試みた。
1. 911GT2RSがbBに追突
上空画像

 既出の映像、画像を見ての通り、今回の事故は911GT2RSがbBに追突した格好で発生した。

 事故現場は湾岸線下り、浮島ジャンクション→大黒ジャンクションまでの3車線直線道路。

 その気になれば300km/hトライが可能な直線としても有名で、一般車(非スポーツカーや一部トラック)であっても、ペースが速いクルマは120km/h程度で走っていることも多い。

<8/7追記>
 当時走行していた車両のドライブレコーダー映像が公開され、当時の状況は以下の通り。

一瞬の事で分かりづらいが、この状況を分析し、少し簡易に図にしてみた。
事故分析

確実にわかっているのは、この、A、B、bBの各車配置。

B車は何かしらの理由で第3車線に車線変更を試み、ほぼ完了したところで911GT2RSがbBに追突している。

このB車の挙動として考えられる理由は2つ。
1つ目はbBよりもペースが速かったから追越の意図で第3車線へ変更
2つ目は911GT2RSの接近に気が付き、避ける意図で第3車線に変更。

そして、可能性としては1つ目の方が高く、それは映像にあるようにbBとBの車間がA車の全長+α、約20~30m程度だったことから推測できる。

広角のドライブレコーダーではそこまで接近して見えないが、実際にはこの距離は結構近い。

<8/10更新>
そして911GT2RS側はというと、衝突前の軌跡として考えられるのは、大きく2つ。

パターン1.第3車線→第1車線(0の位置)→第3車線に戻ろうとしていた大きく円弧を描いた車線変更コース
パターン2.第2車線→第3車線に車線変更コース

そして映像を見ると、衝突の直前は第1車線(=パターン1)にいた可能性が高い。
その根拠は追い抜き時の挙動を見ると、まるでAとBの間にできた隙間を無理矢理すり抜けるような形で出てきているからだ。
事故分析3

またもう一つ、走行速度が一部分析にある288km/h程度だったと仮定した場合、トラックの車線変更に3s、もし気が付いたのがトラックが車線中央に移ってから完了までの1.5sだったとして、その距離は約120m~240m。

もし第3車線を走っていて、240m手前で前を走るトラックが第2車線→第3車線に車線変更を始めた場合、埋まっている第2車線/第3車線を避けて第1車線か第2車線に車線変更。

大きな円弧を描く形ですり抜ける格好かつ、車線変更しているトラックとほぼ平行位で進入してきている事もパターン1の考察でもある。

その前はどの車線を走り、そして直前に第1車線にいた理由までは定かではないが、いずれにしてもこの追い抜きはあまりにも無謀である。

また、衝突前後の状況を見ると、ブレーキランプの点灯有無は定かではないが、ブレーキスモーク等上がっていない事を見るとおそらくはブレーキを踏む間も無く、それより先に右にハンドル動作が起きた、といったところだろう。

まずそもそも、第1車線と第2車線の前2車線を塞いでいるような状況であれば、第3車線に移動しておくことが鉄則で、万一第2車線から第3車線に出てきた時を予測して、ブレーキの準備をしておくことのは順当。

そしてもし、第3車線を走行していて240m先/3sで車線変更してくるような場合であれば、ある程度のブレーキで減速は可能だったはずだ。

ヤバい、と思ったらまずブレーキを踏め。これはどんな場でも通用する鉄則中の鉄則。

衝突回避はできないまでも、ポルシェが誇るセラミックブレーキ、焼け石に水かもしれないが多少速度を殺すことはできたはずだ。

<以下更新前の旧情報>
 今回の衝突パターンとして考えられるのは下記3通り。

事故パターン

P1. 直進していたbBに911GT2RSが何らかの理由(何らかの車両Xの追い越し等)で車線変更し追突
P2. 何らかの車両Xを911GT2RSは右側から追い越し、bBは左側から追い越し、両車の動線がクロスし追突
P3. 右車線を直進する911GT2RSにbBが車線変更で切込み追突

の、3パターン。

後述の911GT2RS側の速度が160km/h以上の高速と想定される事を鑑みると、ドライバーの対応が遅れがちなP2が濃厚なケースと考える。

何かしらの車両を911GT2RSが追い越した後、完了したものと思い第2車線へ移動をしてきたところ、第1車線から第2車線へ車線変更してくるbBの存在に気が付かずor遅れ、追突。

bB側は第2車線へ移動する前に、右後ろ後方が車両Xで死角となった上、猛スピードで迫ってくる911GT2RSの存在に気が付かずor遅れ、追突される。

といったところだろうか。

一般的なスピードの100km/h同士であっても、こういった互いに進路変更している場合は危険が伴うが、いつの間にか近づいてくるような猛スピードで来られる場合は、これは追突される側は避けようがない。

あってはならない事だが、もし万一相対速度が100km/hを超えるような走行を公道でするような場合は、追い越し後、移動先の車線上の両方が開いているような状況でないと、どこからともなく現れる一般車と追突する可能性が極めて高い為、進路変更はしない、というのが鉄則だ。


2. 追突スピード

そして、こちらが最大の問題。

今回の追突スピードは少なくとも相対速度で60km/h以上、100km/h(bB) 対 160km/h以上(911GT2RS)での衝突が濃厚だ。

まずは、下記の二つの動画を見てもらいたい。

 


引用元:https://www.youtube.com/watch?v=nnlHZisdkWE

残念ながらJNCAPの試験項目に後突項目は無いが、JARIが独自に行った実験で、後突実験の模様がある。

1点目は35km/h、2点目は1発目が40km/h,2発目が60km/hでの後突である。

2枚目の60km/hの変形量が一つ今回の事故で鍵となり、この変形量を覚えた上で、bBの状況を見てもらいたい。

bB状況
当然だが、衝突した右リア部分は見るも無残な形になってしまっている。

変形量から先ほどの相対速度60km/hよりも高かった事は想像でき、ヘタすると相対速度100km/hは超えていた可能性があるが、相対速度200km/hまでは行かないだろう。

根拠は以下の200km/hでの衝突試験動画からだ。


もし相対速度200km/hで追突した場合、それこそ原形をとどめない程の変形するのは間違いない。

今回の追突の場合、衝突実験とは異なり一気に速度が0km/hまで止まるわけではなく、慣性によって一時的に加速する。

仮にbBが100km/h、911GT2RSが200km/hで運動量保存の法則から色々な条件を無視して簡易に計算すると、おおよそ150km/h~160km/h程度。

そこにbBは右後ろから衝突されたことによる旋回もはいる。

この二つの動作で横向きにbBは進み、結果として何かしらの要因でシートベルトの保持力が一番弱くなる3角の斜め掛け方向からすり抜け、車外に放り出されてしまった、と考えられる。

bBの動きをまとめると以下のような格好だったと推測する。
<8/7追記>
事故分析2

<以下旧版>
bB動き方



総じてJNCAP等の試験項目も無い事から基本的には後突には法規以上の対策は行われていない。

なので、今回のような猛スピードでの後ろからの追突というのは、かなり弱いというのが事実である。

実際に911GT2RS側は左フロントの破損にとどまり、ボディ側も原形をとどめている。

911
元々ポルシェ自体がモータースポーツで高速域での安全性は知見が深く、今回のような衝突でも一部分の破損、フロントバンパー、左フェンダーと左ドアの破損で済んでいる。

ボンネット自体もカーボンで成形されていたものだが目立った破損も無し。

リアウィングの破損は、衝突後の何かしらの要因で引掛けて外れてしまったのだろう。

衝突に対する乗員保護性に関しては、ポルシェの実力は流石、という証明に諮らずもなってしまった。

<8/7追記>
ただし、カーボンパーツ他の破損度合いは公開された映像を見ると飛散がひどく、これは一般公道を走る上ではあまりよろしくは無い。

カーボンパーツの破片は鋭利な刃物のようなものであり、走行している車両のタイヤに刺さったり切り痕を作ったりして、結果パンク/バーストの可能性が高くなる。

カーボンパーツの使用量や方法は、今後公道走行への法規を含めてよく考えた方がいいかもしれない。

3. まとめ
以上、画像や状況から想像できる条件で分析をしてみたが、当然の如く911GT2RS側が法定速度を大幅に上回る速度で走行した事によって生じた可能性は極めて高い。

その走行速度も、今後の捜査で同時間帯の走行車両のドライブレコーダーや、同路線の監視カメラ(浮島ジャンクション→事故現場までの間に少なくとも3か所設置)の分析によって明らかになる事だろう。

元々湾岸線の下り方面は、他の路線と比較しなぜか、オービスが全くない等、速度が出せるにもかかわらず取り締まりの実施があまりされていない印象が強かった。

今回の一件で、短期的には同路線での取り締まりや簡易オービスの設置も増加する事だろう。

以前にも書いた通り、法定速度を大幅に超えての走行は犯罪行為で、今回のような悲惨な事故を起こしかねない。

高性能車の性能を試したくなる気持ちは勿論十分にわかるが、それをしたいなら、サーキットへ行こう。

どんなクルマでも人を殺す凶器になりえるが、高性能車はその能力がさらに高い。もし自制心がないのであれば、購入を控える事だ。